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手作り恋愛小劇場「私とあなた」

わたしは、ベッドの上にいた。

さっきまでは、わたしの前にいたのは普段の彼だ。
優しくて、いつも笑顔で、わたしを包みこむように扱ってくれる彼。
ふとしたときに面白いうんちくを語ってくれて、わたしを楽しませてくれる普段の彼。

でも、今は普段の彼と少し違う。

付き合う前の話。
ある日、わたしは間違えてお父さんの歯ブラシを使ってしまった。
理由も言えずに学校で落ち込んでいたわたしを見て、彼は優しく語り掛けてきてくれた。

「知ってる?あずみちゃん!植物は葉緑素があるから光合成ができるんだよ!
俺はあずみちゃんの葉緑素になりたい。アイワナビー葉緑素!」
なんて、訳のわからないことを意気揚々と語りかけてわたしに元気をくれた。
仮にわたしが彼のおかげで光合成できたとしたら、、、わたしだって酸素を作り出せるんだ!
そう考えていたら、憂鬱な気分なんて吹っ飛んでしまった。
「歯ブラシがなによ。」そう思わせてくれた彼。
人を元気づけることに喜びを感じている、優しい彼。

その3ヵ月後、私と彼は付き合うことになった。

でも、今は付き合ったばかりの彼と少し違う。

さっきまで、わたしと彼は成人式の前祝いで二人で飲みに行っていた。
彼に告白されたあの日から、半年ほど経っている。
その間は、週に一回程度で買い物に行ったり、遊園地に行ったり、、、、

そんなデートが多かったから、「明日、二人で飲もうよ」と言われた時は少しビックリした。
あまりにも唐突すぎて、最初は「何を飲むのか」というところから考え始めたくらい。
わたしの頭の中には、なぜか筋肉ムキムキのボディビルダーが浮かんでいた。
「ちなみにプロテインとかを飲むわけじゃないからね。お酒だからね。」
知ってか知らずか、彼はたまに人の心を読んだかのような発言をする。

でも、今は普段の彼と少し違う。

「あずみ、大好きだよ。」
彼の家でDVDを見ていたときに唐突に言われた。
普段笑顔でおどけている彼から、真剣な表情でこの言葉を聞いたとき、わたしの理性は一瞬で吹き飛んだ。
感情の方向こそ違うが、きっとクリリンを殺された時の悟空もこんなふうに理性が吹き飛んだんだろうな。

大好きな人から言われる「大好き」という言葉で、こんなにも自分が自分じゃなくなるなんて。
わたしは、自分が恋をしているんだ、と、改めて感じた。

本当に、普段の彼と違う。

わたしと触れ合う口唇や手が、普段より少し乱暴だなあと思った。
でもそれは、わたしを貪りたいという気持ちと、わたしを優しく扱いたいという気持ちの葛藤の結果であるということはわかっている。
瞳孔も少し開いていたけど、「彼の開いた瞳孔を見れるのはわたしだけ。」と思うと
拡がっていく瞳孔の直径すら愛おしく思えた。

彼の腰と同じリズムで、シーツとわたしの髪がこすれる音が聞こえる。
一定のリズムで。シーツと、わたしの髪の音。

彼の目は真っ直ぐわたしを見つめている。
わたしは、凄く恥ずかしかった。キスの時ですら見詰め合うのが恥ずかしいのに、こんな時に。
でも、彼から目を逸らしたくはなかった。

わたしは、必死で恥ずかしさを押し殺そうと、聞こえてくる髪とシーツの音に耳を委ねた。
一定のリズムで、ベッドの軋む音と、絹がずれるような音。

----わたしの耳には、その音が「オッス オッス オッス オッス」と聞こえ初めてきてしまった。

こうなってしまったらわたしはダメだ。
昔、先生に怒られた時もそうだった。
「笑ってはいけない」と思ったときほど笑いたくなってしまう。
こんな時に笑いそうになってしまう自分に、泣きたくなる。

「オッス オッス オッス オッス (オラ悟空)」
自分を追い詰めるように、いらない合いの手を入れてしまう悪いクセもある。本当に無意識に。
自分の中に違う自分がいるとしか思えない。本当に自分が嫌いになる瞬間だ。

「プッ」
彼の気持ちを裏切ったと思った。
笑うことがこんなに辛いなんて。そう思って泣いてしまいそうだった。

ふと、彼は少しリズムを変えた。そして、笑顔でわたしの髪を撫でながら言った。
「ドラゴンボールのこと考えてたでしょ?」

わたしは思った。
わたしは、大恋愛をしているんだと。